配偶者居住権とは?いつから?相続時どうなるの?
民法改正めじろ押し!
その内のひとつである配偶者居住権の新設について深堀りしてみよう。
現行民法ではどうなっているかというと、例えば
・遺産がほぼ不動産だけだった→相続人に法定相続分を割り振るために、配偶者が住んでいた家を売るハメになり追い出される。
・預金等もあるけれど遺産不動産の評価が高かった→配偶者が住んでいた家を相続したものの、預金等を相続できなかったため、生活費が捻出できない。
・「居住用不動産の贈与税の配偶者控除」があるのに、配偶者への特別受益になってしまうためイマイチ使いにくかった。
上記のようなことが起こっていたために、この度配偶者居住権というものが新設された。
配偶者居住権とは?いつから?相続時どうなるの?
法定相続の基本のき
法定相続人とは
配偶者は必ず相続人である。
血族である。
第1順位→子供がいる場合は子供と配偶者
第2順位→子供がいなくて配偶者だけの場合は父母(父母死亡時は祖父母)と配偶者
第3順位→子供も配偶者も父母もいない場合は兄弟で、故人より兄弟が先に亡くなっている場合その子供達が代襲相続人となる
下位順位の者は上位順位が死亡、相続放棄等しない限り権利はない。
子供が死亡していて、孫がいる場合は孫が代襲相続する。
法定相続の割合
第1 順位→配偶者1/2、残り1/2を子供達で分ける
第2順位→配偶者2/3、残り1/3を父母で分ける
第3順位→配偶者3/4、残り1/4を兄弟で分ける
代襲相続の遺産割合の計算
例えば子供が2人(兄、弟)がいて、兄死亡で兄の子供が2人いたとする。
妻は1/2、弟は1/4、兄の子供は1/8づつである。
代襲相続は結構あります。言葉だけでも覚えておきましょう。
遺言と遺留分
遺言書を書くとその通り実行されるけど、遺言を書く場合は深い知識が必要。自信がない場合は相続に詳しい人に相談するのが一番。民法と相続税法が複雑にからみあっていて、あるメリットを使うとデメリットがくっついてきたり、聞きかじった知識だけでやってしまうともれなく争続が起こったりする。その最たるものが遺留分である。
遺留分とは法定相続分の1/2の割合をいい、その割合の分は遺産をもらう権利がある。
つまり遺言書とおり実行されて、全く貰ってないとか、遺留分の割合を貰ってないという相続人が、貰い過ぎている相続人に相続財産の請求ができる権利のこと。
遺留分もこの度改正となって(2019.7.1~)、遺留分行使によって生じる権利が金銭債権となった。どういうことかというと、貰い過ぎている人は金銭で払わなくてはいけなくなったということ。金銭で払えない場合、裁判所に支払期限の猶予を求めることができる。
名称も「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」と変更へ。
遺言書も民法改正になった。
現行法では自筆証書遺言は全文を手書きしなくてはいけなかったけども、改正法では財産目録をPCで作成してもいいことになった(2019.1.13~)。さらに、遺言書を法務局で預かってくれることになり(2020.7.10~)、遺言書の存在が遺族に分かりやすく、偽造防止に役立つことになる。手数料はまだ未定だが、数千円という感じらしい。
遺言書改正はめっちゃイイと思った。
やっと本題の配偶者居住権
現行の問題点
前置きが長くなったけど、上記までのとおり法定相続分と遺留分と遺言書を分かって頂けないと説明がしにくいもので…やっと本題の配偶者居住権。
現行制度の上記のイラストは遺産に預金もあったパターンだけど、自宅不動産しか遺産がほぼなかっただと、遺留分を請求され最悪住みなれた家を売るしかなかったり、自宅を相続した他の相続人に立ち退きを求められ追い出されることも。いくら遺言で自宅は妻にと残しても遺留分があるから遺言とおりにいかない場合が出てくる。
配偶者居住権を設定するには
ここからはわかりやすく亡くなった人=夫、配偶者=妻で例えていきます。
配偶者居住権とは、夫名義の自宅に相続開始時妻が居住用として住んでいた場合は、妻が自宅を取得することが出来なかったとしても住み続けることができる権利のことをいう。
改正後は上記のイメージ。
つまり自宅を居住権と負担付き(配偶者居住権のついた)の所有権に分けようというもの。妻は遺産分割の選択肢のひとつとして、終身または一定期間無償で居住できるようになる。
ただし、第三者に対抗するためには配偶者居住権を登記することが必要。どういうことかというと、自宅を相続した(例えば子供)が自宅を売却してしまったり、差押がされてしまったりすることが考えられるがそれに対抗するために登記をしようということ。
配偶者居住権は下記によって成立する。
①遺産分割協議
②遺贈・死因贈与
③裁判所の決定
例えば②だと遺言書等があるが、「自宅は子供に相続させ、配偶者居住権を妻に取得させる」という文言で作成するといい。
配偶者居住権を気で付けること
・相続発生時に自宅が共有財産になっていると適用できない。夫婦の共有名義ならOKだが、親子の共有の時は適用外。
・配偶者は所有者の承諾がないとリフォーム等をすること、自宅を貸し出すことはできない。
・固定資産税の支払いやリフォーム代金など自宅にかかる経費をどちらの分担にするかはまだ未定。(固定資産税と、現状維持の修繕費は配偶者持ちなのではないかと予想されている)
・配偶者居住権はその人だけの権利であり、売却することは出来ない。
・配偶者居住権は配偶者死亡で消滅するので誰かに相続出来ない。配偶者死亡で所有者には「負担付き」がなくなり通常の所有権になるので売却なりなんなり自由にできる。
遺言もなく遺産分割協議でも配偶者居住権を取得できなかった場合
うちの家族は仲がいいから大丈夫と思っていたり、遺産が少ないから遺言書なんかいらないだとうと故人の遺志が見えない場合や、遺産分割協議で結局配偶者が自宅に住めなくなる場合、改正法では何かないのか?
配偶者短期居住権の新設
適用要件は配偶者居住権と一緒で、自宅に配偶者が住んでいた場合に限る。
自宅が配偶者以外に相続された場合や、遺言で配偶者に自宅を相続させないなどの意思表示をしている場合であっても以下の期間は従来とおり住める。
①遺産分割に関与する場合は確定するまでの間(最低でも6ケ月)
②第三者に遺贈された場合や配偶者が相続放棄した場合には、建物の所有者から消滅請求を受けてから6ケ月
配偶者短期居住権は配偶者居住権と違い、権利としての価値がありません。価値がないので相続税もかからないし、その他の遺産からマイナスされることもない。
配偶者居住権はいつから?
2020年4月1日~以降の相続発生からで、遺言書も2020年4月1日以降作成のものになる。
配偶者居住権の個人的な見解
今回の配偶者居住権の新設は夫または妻を亡くした年老いた配偶者への居住という権利に救済が入るような改正。これが正しい救済なのかどうかは見る角度による。どこの家庭もが政府が理想とする家庭を築いてるとは限らない。
故人が再婚をしていると(特に子供が成人後)継母または継父と折り合いが悪く、育った家にタダで折り合いの悪い配偶者が住むことになる。しかも負担付きで所有権はあるが自由に使うことができないなど容易に想像できる。
固定資産税の支払いは配偶者の予定ということだが、払わない場合はどうなるか?もちろん住んでもいない所有者に義務が回ってくることだろう。
配偶者居住権を遺言や遺産分割協議で決める場合は、よくよく考えて決めることをお勧めする。決めたならば、権利をキッチリ主張しよう。